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PERSOna Essayist Special『時間がくれるもの、奪うもの』APR 23.2025-Nit.Wednesday

時間は、静かにすべてを変えていく。 優しく、時に残酷に。

若いころの私は、時間が“無限”だと本気で思っていた。 夜更かしも、失敗も、恋も、全部やり直せる気がしていた。

でも、ある日を境に、 時間が“限りあるもの”として、私の前に現れる。



「昨日できたこと」が今日できなくなる。
「また今度会おう」と言ったその人に、二度と会えなかった。

そういう出来事が増えていく。 時間は、確実にこの私から何かを奪っていく。

若さ。無鉄砲さ。無条件の体力。 夢を見られる力、そして失うことへの鈍感さまでも。

それは寂しく、痛みも伴う。 だけど私は、そこに確かな意味を見出すようになった。



時間が奪うのは、量。 でも、くれるのは、質だと思う。

あれもこれも手に入れたいと思っていた私に、 時間は「選ぶ勇気」を与えてくれた。

人に好かれたい、認められたい、 そう思っていた日々から、 「私が大切にしたいもの」だけを残す強さをくれた。



時間は、過去を丸くしてくれる。 あんなに悔しかったことも、 泣いた夜も、今では穏やかな良い思いになっている。

過去が愛おしくなるのは、 そこに後悔だけじゃなく、成長があるから。



そして、時間は未来を急がせなくなった。


「もっと早く」と焦る日々から、 「今ここにいよう」と思えるように。

変わらないと信じていた自分が、 静かに変わっていくことに、 ある種の“誇り”を持てるようになった。



今、私は思う。


時間は、私たちから奪っていく。 でも同時に、何にも代えがたい宝物を残している。

それは、 自分にとっての“本当の豊かさ”を知る力。 すれ違っても、失っても、 「今ここに在るもの」を慈しむ感性。



時間がくれるものは、静かで深く、
時間が奪うものは、切なくて確か。

そのどちらも抱えて、 私は、今日もまた生きていく。


Epilogue

時間に追われることが減るたびに、

自分の歩く速さでしか見えない景色があるとに気づかされる。

奪われるたびに、手の中に残るものは、 きっと本当に必要だったものだけとも思える。

今日という一日も、 そんな静かな確かさの中にあるのだと思う………