
朝の通勤電車。
誰もがスマホを握り、無言で“運ばれていく”。
その中にいた私は、たぶん昨日と同じ服を着て、同じ駅で降りる予定で、特別な予定もない、ただの「日常の一部」だった。
——そのはずだった。
隣に座ったご老人が、ふと膝に乗せた新聞を畳む音。
小さな所作が、静寂を裂く。
「人は、最後の瞬間に思い出すのは、毎日の何気ない風景なんだって」
まるでひとりごとのように呟かれたその言葉は、私の中の何かを弾いた。
電車の揺れに身を預けながら、私は静かに涙をこらえた。
そんな日も、ある。
毎日がただ流れているように見えるけど、
その一瞬一瞬に、人生を変える“断片”が転がっている。
どこか遠くに“すごい出来事”があるわけじゃない。
車内のつり革と、まどろむ人々と、
そのあいだの「沈黙」の中に、すべてはあった。
私たちはきっと、気づかないだけで、
何度も何度も、人生をやり直しているのかもしれない。
その一瞬に、立ち止まることができれば。