Home

LIFE ESSay 31『電車の中で人生が変わった』APR 10.2025-Mor.Thursday

朝の通勤電車。

誰もがスマホを握り、無言で“運ばれていく”。

その中にいた私は、たぶん昨日と同じ服を着て、同じ駅で降りる予定で、特別な予定もない、ただの「日常の一部」だった。

——そのはずだった。



隣に座ったご老人が、ふと膝に乗せた新聞を畳む音。

小さな所作が、静寂を裂く。

「人は、最後の瞬間に思い出すのは、毎日の何気ない風景なんだって」

まるでひとりごとのように呟かれたその言葉は、私の中の何かを弾いた。



電車の揺れに身を預けながら、私は静かに涙をこらえた。

そんな日も、ある。



毎日がただ流れているように見えるけど、

その一瞬一瞬に、人生を変える“断片”が転がっている。

どこか遠くに“すごい出来事”があるわけじゃない。
車内のつり革と、まどろむ人々と、
そのあいだの「沈黙」の中に、すべてはあった。



私たちはきっと、気づかないだけで、

何度も何度も、人生をやり直しているのかもしれない。

その一瞬に、立ち止まることができれば。