
2045年、法は“人”ではなく“AI”が書くようになった。
かつて、法律とは「人間の良心と理性」によって築かれるべきものだった。
しかしいま、その役割はAIに引き継がれつつある。
──理由は明快だ。
AIは感情に左右されず、膨大な過去判例と社会動向を瞬時に解析し、
“より公平で、より迅速な”ルールを整備できるからだ。
ある国では、すでにAIが法案を起草し、議会では人間が「承認」するだけという仕組みが導入されている。
条文は緻密で、曖昧さがない。適用範囲は広く、社会的弱者にも配慮されている。
…少なくとも、表面上はそう見える。
だが、「正しすぎる法」は、ときに人間の自由を蝕む。
AIは情状酌量をしない。
法の“例外”という、人間的な余白を許さない。
「公平さ」を突き詰めた結果、すべては機械的な一律判断に収束していく。
・親が子を叱っただけで「精神的虐待」とみなされる。
・感情的なつぶやきが「ヘイトスピーチ」として罰則の対象になる。
・無自覚な過失すら、AIには「意図あり」と断定される。
“正義”の名のもと、個人の感情や事情は、ますます無視されてゆく。
それでも、私たちはAIによる「法の最適化」を選ぶのか。
それとも、不完全であっても、人間が人間らしく裁く世界を守るのか。
この物語は、ある国で実際に始まった
「AI立法社会」の現在を描いたフィクションである。
…ただし、フィクションの境界線は、今や限りなく薄くなってきている。