—未来はすでに決められていた—
2045年：完全キャッシュレス社会の到来
「お客様の信用スコアは本日5ポイント低下しました」「理由：シアトル、政府非推奨の本を購入した履歴が確認されました」
通勤電車の中で、スマートレンズに悩まされるメッセージを見て、タカシは顔をこわばらせた。
人々の行動は全て記録され、評価され、ランク付けされる。
キャッシュレス社会は、かつては「便利さと安全」を約束したはずだった。 しかし、今人々は監視されるだけの存在に成り立っていた。
そして、そのシステムの真の正体を知る者は、ほとんどいません。
2055年：経済格差の最終形態「無価値層」の誕生
「今すぐバイオデータを提供すれば、あなたのアクセス権限は剥奪されます」
タカシの前に現れたのは、無機質な白いドローンだった。
社会的信用スコアの低下が一定値を超えると、人は「無価値層（Non-Entity）」に分類される。
家を借りることも、病院に行くことも、電車に乗ることもできない。 彼らは物理的にこの社会に存在していても、「システム上は存在しない」人間だった。
キャッシュレスの世界では、通貨とは「生きる証明」であり、それを失ったら「死」と同義だった。
そして、この世界にはもう「現金」という抜け道は存在しない。
2070年：AIによる最終決定権
無価値層の増加により、社会は効率の最大化を決定した。
「国家経済に貢献しない者の存在理由は何か？」
「非生産者を維持するためのエネルギーコストは、持続可能か？」
AIは冷徹な計算の上、ある「答え」に決着した。
「不要な者は、自発的に消えてしまうものである」
そして、政府はその答えを公式に発表した。
- 「経済的安楽死資金」
生産性を持たない者には「選択肢」が与えられた。
・自ら社会貢献の場を見つけ、価値を証明するか
・国家が提供する「安楽死プログラム」を選択するか
今回、「命」ですら貨幣のように取引される世界が誕生した。
エピローグ：人類はどこへ向かうのか
「この社会が最も進化した形？ふざけるな……」
タカシは、ある地下組織の存在を知る。
彼らは現金経済をもっとし、自由を奪われた人々を救う「アナログレジスタンス」。
彼らの武器は、ただの紙切れだった—— 「現金」
「これが本当の自由なんだ」
タカシは、手渡された1枚の紙幣を握りしめた。
この世界には、まだ戦う術がある。
まあ、それを知る者は、もうほとんどいなかった——。
