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LIFE ESSay 『時計を見ずに暮らす日』APR 15.2025-Mor.Tuesday

朝、目が覚めたときに、
「あ、今日、時計見なくていい日だ」と思った。

カーテンの隙間から入ってくる光は、
いつもよりすこし柔らかい。

時間に追われないだけで、こんなにも“朝”は優しくなるんだ。

ベッドから出て、ゆっくり顔を洗って、
お湯を沸かす。

沸騰の音が、今日は音楽みたいに聞こえた。

朝ごはんは、冷ごはんに梅干し。
それから、昨日の夜に残したお味噌汁。
なんてことないものが、なぜかごちそうに思え
る。

今日は、やらなきゃいけないことがひとつもない。

誰に会うわけでも、連絡を返すわけでもない。
こんなふうに、“時間から自由になる日”って、
生きてる実感がふわっと浮かびあがってくる。

外に出ると、鳥の声がした。
いつからこんな声、聞こえてなかったんだろう。

そう思いながら、ベンチに座る。
時計を持っていないから、
「何時だろう?」って思っても、別に困らない。

太陽の傾きと風の匂いで、

「たぶん午後の少し前」とか、
「夕方に近いな」とか、
そうやって時間を感じてみる。

時計がないと、
“今”をちゃんと感じるしかなくなる。
そして、それが心地いい。

日が暮れて、空がほんのり茜色に染まりはじめたころ、

ようやく「今日が終わる」という感覚がやってきた。

だけど、それはさみしさじゃなくて、
「よく暮らしたなあ」っていう満足に近い。

眠る前、スマホを一度も開いてないことに気づいた。
でも、何も失っていない。
むしろ、いろんなものを“取り戻していた”一日だった。

こんな日を、
ときどきでいいから、
自分に許してやろう。

時計を見ずに暮らす日。
それは、心の中に“時間が戻ってくる日”でもあった。


エピローグ

暮らしって、
本当は時計に合わせて動くものじゃない。



目で見て、耳で聞いて、体で感じて、
“今”を受けとめながら進んでいくもの。