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LIFE ESSay『風が教えてくれること』MAY 01.2025-Mor.Thursday

風は、
何も言わないくせに、
たくさんのことを教えてくれる。

たとえば、
「いま立ち止まっていいよ」とか、
「もう少しだけ頑張ってごらん」とか。

目には見えないその流れが、
私たちの背中を押したり、
ときにはそっと引き止めたりしている。



若い頃は、そんな風の声なんて聞こえなかった。


ただがむしゃらで、
「走らなきゃ」「負けちゃいけない」
そんな焦りに突き動かされる日々だった。

無理やりにでも、
向かい風に逆らって歩こうとした。

たとえ心が擦り切れても、
たとえ体が悲鳴を上げても、
「それが正しい」と信じ込んでいた。

でも、風はちゃんと吹いていたんだ。
「今じゃない」
「もう十分だよ」って。

気づかないのは、
いつだって、自分だった。



いつからだろう。
風の匂いに、耳をすませるようになったのは。

朝、カーテンを揺らす柔らかな風。
駅までの道で頬を撫でる冬の風。
夏の夜に草の匂いを運ぶ、湿った風。

ひとつひとつが、
「今」を教えてくれている気がする。



ある春の日、
小さな公園のベンチに腰掛けて、
ぼんやりと風を感じていたときのこと。

ふと、わかった。

「手放してもいいものがある」
「守らなくていいプライドがある」

そんなシンプルなことに。

気がついたら、
肩の力が抜けていた。

そして、
少しだけ泣いた。

何かを諦めたんじゃない。
何かを許したんだ、と思った。



風は、教えてくれる。

「変わっていいんだよ」と。
「終わっても、また始めればいい」と。

人はときどき、
「終わり」を怖がる。
「変わること」を裏切りだと勘違いする。

でも、風は言う。

**「同じ場所に立ち続けるためには、
変わらなきゃいけないときもあるんだよ」**と。



いま、私は、
風の流れに身を委ねることを、
少しずつ、覚えはじめた。

全力で逆らうでもなく、
ただ、無理に従うでもなく。

ちゃんと感じて、
ちゃんと選んで、
ちゃんと、自分の足で立って、
一歩踏み出す。

そんなふうに、
風と一緒に、生きていきたい。



たとえ誰にも見えなくても、
たとえ誰にも聞こえなくても。

私には、ちゃんと聞こえる。

風が、今日もどこかで、
そっと教えてくれている。

「だいじょうぶ。
あなたは、ちゃんと、生きているよ。」


画像
「見えない風が、未来への道しるべを運んでくれる。」


#風が教えてくれること #LIFEESSay #静かに強く生きる