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LIFE ESSay『あなたのことは、もうわからない』APR 29.2025-Mor.Tuesday

かつて、あなたのすべてを理解していると思っていた。

癖も、仕草も、怒り方も、寂しがり方も。
目を見れば心が読めたし、言葉を交わさずとも通じ合う気がしていた。

けれど、今日、あなたの言葉を聞いたとき、
ふと、胸の奥に冷たいものが走った。

「この人は、本当に私の知っている人なのか?」

そんな思いが、音もなく忍び寄ってきた。



理解しあえることが、愛だと思っていた。
だから、必死で分かろうとした。
機嫌を取って、歩幅を合わせて、傷つけまいと神経をすり減らした。

けれど、それでもなお、すれ違いは起きる。
小さな溝は、いつしか谷のように深くなっていく。

理解できないことを恐れて、わからない自分を責めた。あなたを責めた。

どちらが悪いのかわからないまま、ただ苦しくなった。



それでも、思う。

本当に誰かを理解するなんて、もしかしたら不可能なのかもしれない、と。

たとえ家族でも、恋人でも、友人でも。
私たちは結局、別々の孤独を持ったまま、それでも近づこうとしているだけなのかもしれない。

わからない。
あなたのことも、私のことも。



でも、わからないからこそ、面白い。
わからないからこそ、知りたくなる。
わからないからこそ、そばにいたいと願うのかもしれない。

完璧な理解を求めることを、もうやめよう。
「わからないまま一緒にいる」という選択肢を、もっと大事にしてみよう。

わからなくても、
心を寄せることはできる。
わからなくても、
手を差し出すことはできる。



今日、あなたの言葉に驚いた私も、
たぶん、あなたにとっては、何度も「わからない」存在だったのだろう。

それでも、こうしてここにいる。
手放さずに、まだ、ここにいる。

わからないことは、悲しみじゃない。
わからないことは、
出会い直すための、静かなきっかけなのだ。


画像
「心が離れていく瞬間は、音もなく訪れる。」

かつてあんなに近くに感じたあなたが、
今はもう、知らない誰かのように見える。

それは、悲しみでも怒りでもない。


ただ静かに、受け入れるしかない「変化」だった。