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PERSOna Essayist 完全版第6弾『彼の時間、私のすべて』APR 07.2025-Nit.Monday

犬と生きることは、大変じゃない。
そう言うと、意外に思われるかもしれない。

でも本当にそうだった。



決まった時間に散歩へ出ることも、
雨の日、寒い日、疲れている日でさえ、

あの瞳が「行こう」と誘うだけで、私は靴を履いた。



一緒に遊ぶことも、
本能を満たしてやることも、
「楽しい」というより、「幸せの交換」だった。

おもちゃを振り回して笑ったあのときの声、
耳が立ち、尻尾がぶんぶん動くたびに、

私は「生きてる」って感じた。



健康的ななごはんは勿論、予防接種、定期健診。

できる限り長く一緒にいるための準備も、
すべて「当然のこと」だった。

家じゅうに舞う毛も、服に忍び込む毛も、
むしろ「私たちが一緒にいた証」として微笑ましかった。



でも、自由を少し手放したかもしれない。


夜の外食、旅行、ふらっと寄る映画館。


でも、彼がいたからこそ、
“本当の自由”がなんなのか、知れた気がする。



何も、犠牲なんかじゃなかった。

…ただ、


ひとつだけ。



彼が、ゆっくりと老いていくことだけは、

どうしても、

どうしても慣れることができなかった。



かつて艶やかだった毛並みが、
少しずつ色を失い、ハリをなくしていく。


耳も遠くなり、足取りはゆっくりになった。

あれだけ大好きだったボールを、
いまでは「見送るだけ」になった彼を見ると、


胸が、ぎゅっと苦しくなる。



だけど──

彼はまだ、あの頃と同じ目で私を見ている。

ただただ「一緒にいたい」と願う、透明なまなざしで。



私にとって、彼は“人生の一部”かもしれない。

けれど、
彼にとって、私は“人生そのもの”だった。



あまりに短い一生を、
彼は、すべて私にくれた。

無償で….
無言で…..
無条件で….



だから私は、誓う。

最期のその日まで、
彼にとっての  “すべて”  であり続けると。

それが、彼への最大の恩返し。
それが、彼と私の、たった一つの約束。


エピローグ


愛とは、最後まで「側にいる」こと


犬の命は、短い。
でもその時間は、詰まっている。


何の見返りもなく、
ただこちらを信じて生きてくれる。

だからこそ、
その命に応えるのは「特別なこと」じゃない。

ただ最後まで、ちゃんと愛してあげること。

その愛が、きっと彼らにとっての「生きた世界の全部」になるのだから……