私の冷蔵庫には、いつも何もない。いや、正確には「何もないように見える」が正しい。
その日、ヨウコが遊びに来ることになった。彼女とはもう10年以上の付き合いだが、特に説明することはない。そういうものだろう。彼女はいつだって抜け目のない『しっかり女子』で、たぶんこれからもそうだ。
一方で私は……まあ、適当なダメ男だな。そんな自分をヨウコは笑うし、私はその笑いに救われる。それで十分だ。
さて、そんなある日、冷蔵庫を開けたら驚いた。そこには、醤油とバターと乾燥パスタだけが静かに並んでいたのだ。
「ああ、私の人生そのものだな。」
そう思った瞬間、私の中で何かがピカッと光った。
冷蔵庫と私の小さな戦争
ヨウコが来るまでに、少しは「ちゃんとした人間」を演じるために、冷蔵庫を掃除することにしといたほうが良さそうだ。
だけど、そこからが壮絶だった。
まず、奥から出てきたのは、去年の正月に買ったお餅(緑の斑点付き)。
「うわっ!カビって意外とアーティスティック!」
次に見つけたのは、いつのかわからないバナナ。いや、これはもはやバナナではなく「謎の茶色い塊」だ。
「……誰がこんなもの買ったんだ?」
もちろん私に決まっているのだが、そう考えると自分に腹が立つ。
だんだん掃除というより「過去の私との対話」みたいになってきた。
パスタに込めた人生の味
冷蔵庫がスッキリした頃には、もうヨウコが来るまであまり時間がなかった。
でも、焦った私はスマホで「醤油 バター パスタ レシピ」を検索し、目に飛び込んできた簡単レシピを採用することにした。
「醤油とバターを炒めるだけで、本当に美味しいの?」
半信半疑で作ってみたら、これが驚きの美味しさ。シンプルだけど、しっかりした味わいで、どこか懐かしさもある。
ヨウコの来訪と哲学の夜
夕方、ヨウコがやってきた。彼女にこのパスタを振る舞うと、彼女は驚いた顔をして言った。
「これ、すごく美味しい!これだけで作ったの?」
私は胸を張って答えた。
「そうだよ、冷蔵庫にあったものだけで作ったものだよ…人生って、案外これで回るもなんだな」
ヨウコは目を丸くして笑いながら言った。
「トオル、あんたって本当に不思議よね。そんなふうに思えるのが羨ましい。」
その一言が、私の心にじんわりと響いた。
冷蔵庫の中に広がる人生
その夜、ヨウコと一緒にパスタを食べながら、私たちはいろんな話をした。人生のこと、仕事のこと、過去の恋愛のこと――すべて、笑い話に変えてしまうのが私たち男女ともだちの得意技だな。
冷蔵庫にあった「何もないように見えるもの」から生まれた一皿の料理。それが、なんだか私たちの生き方そのものに思えた。
「人生も冷蔵庫も、中身がちょっとだけでも、工夫次第で案外なんとかなる(笑)」
そう呟きながら、私はパスタの最後の一口を口に運んだ。
その瞬間、私は心の中で小さくガッツポーズを決めていた。
これからも、冷蔵庫と人生に向き合う「適当だけど全力な私」でいようと思う。
あとがき
冷蔵庫には、私の人生が詰まっている。
そして、その人生には少しの醤油とバターがあれば、十分なのだ。
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