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師走の冷たい風が、街を忙しなく駆け抜けるある日。リビングでは母と娘の美咲が、大掃除に取り組んでいた。とはいえ、その手はもう随分と止まっている。
「これ、ちょっと見てみて。」
美咲が埃をかぶった古いアルバムを引っ張り出す。母が何気なくそれを開くと、彼女の顔がほころんだ。
「懐かしいわね。この絵、美咲が幼稚園の時に描いたやつじゃない。」
アルバムには、ぎこちない線で描かれた家族の絵が収められていた。鮮やかなクレヨンの色が、幼い美咲の一生懸命さを物語っている。
「お父さんに見せたら、すごく喜んでたよね。」
美咲が笑いながら言うと、母もその記憶をたどるように微笑んだ。
次のページをめくると、美咲の赤ん坊の頃の写真が現れた。小さな手、ふっくらとした頬。写真の中の赤ちゃんは、初めて立とうとしている。
「これ、美咲が初めて立ったときね。本当に感動したわよ。」
母の目は遠い昔を懐かしむように輝いていた。その優しい目を見て、美咲は少し照れ臭そうに笑う。
ページを進めるたびに、懐かしい光景が次々と現れる。父が若い頃に撮った少し気取ったポーズの写真、家族で海水浴に行った時のスナップショット――どれもが大切な思い出だ。
「あ、これ見て!お母さん、なんでこんな服着せたの?」
美咲が指差したのは、時代を感じさせるフリル付きのドレスを着た自分の写真だった。
「可愛いと思って選んだのよ。当時の流行りよ。」
「いやいや、これはないでしょ!」
二人は大笑いした。
気づけば、リビングには片付け途中の物が散乱している。時計の針はすでに夕方を指していた。
「全然掃除が進んでないじゃない!」
母が呟くが、その表情には怒りよりも笑顔が浮かんでいる。
「でも、こんなのも悪くないよね。」
美咲がそう言うと、母も同意するように頷いた。
母はアルバムを閉じ、新しい収納箱にしまい込む。そして美咲に一言言った。
「来年も、こんな風に一緒に笑えたらいいわね。」
窓の外には、師走らしい冷たい風が吹いていたが、室内には母と娘の笑い声が温かく響いていた。
エピローグの挨拶
「忙しさに追われる年末でも、思いがけない笑顔が心を温めてくれることがあります。この物語が、そんな瞬間を思い出すきっかけになれば嬉しいです。次回もお楽しみに!」
次回の予告
街角エガオ 第5回: 「ありがとうを伝えるケーキ」
投稿予定日: 12月23日(月) AM7:00
ハッシュタグ
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