そのニュースは、どこにも報じられなかった。
都内の高級マンション「桜坂タワーズ」の一室で、男性の遺体が発見されたが、テレビも新聞も一切触れない。
SNSですら、事件に言及する投稿は驚くほど少なく、わずかに「あのマンションで何かあったらしい」と噂するコメントが残るだけだった。
「何かがおかしい」
フリージャーナリストの斉藤遼は、その違和感に引き寄せられた。
過去に何度も政府や企業の不正を暴いてきた経験から、情報が封じられているときこそ、背後に”大きな力”が働いていると直感する。
斉藤はパソコンの画面をじっと見つめ、SNSにわずかに残った事件の痕跡を追っていた。
「桜坂タワーズで死体が発見されたのに、なんでニュースにならないんだ?」
「管理人が警察に通報したらしいけど、その後、何の報道もないぞ」
「遺体の身元、あの政治家の秘書じゃなかったか?」
目を細め、斉藤は投稿者のアカウントにアクセスした。匿名の一般ユーザーが書いたものにしては、やけに具体的な情報だ。
彼の勘が告げていた。
この事件は、ただの事故ではない。何かが隠されている——。
失踪する情報と証言
遺体の身元は、田嶋圭吾。
与党の有力政治家・大森昭一の秘書を長年務めていた男だ。
しかし、田嶋の突然の死について、大森も党も公式なコメントを一切出していない。
「秘書が死んで、何の反応もないのか……?」
斉藤は、田嶋の家族に連絡を取ろうとしたが、どこに電話しても「現在、使われておりません」の無機質な音声が返ってくるだけだった。
さらに調べを進めると、田嶋の妻と息子も突然、引っ越していたことが分かった。
近所の住人の話では、「警察が訪ねた翌日に家族が姿を消した」と言う。
不審な点が多すぎる。
事件そのものだけでなく、関係者の証言や記録も、何かに押し潰されるようにして”消されて”いるのだ。
マンションの謎
斉藤は、現場となった「桜坂タワーズ」へ足を運んだ。
高層ビルのような佇まいの高級マンションで、住民のほとんどが上流階級の人間たちだ。
エントランスには警備員が立ち、入居者以外の立ち入りを厳しく制限している。
だが、斉藤はこうした場所への潜入方法を知っていた。
マンションの管理人や清掃員など、裏方のスタッフから情報を引き出すのが鉄則だ。
彼らは、住民が何をしているかをよく知っている。
管理人室を訪れると、初老の男性がいた。
目が合った瞬間、彼はまるで何かを警戒するように顔を伏せた。
「すみません、田嶋さんが亡くなった件について……少しお話を伺えますか?」
斉藤が尋ねると、管理人は困った顔をした。
「申し訳ありませんが……私には何も話せません」
その口ぶりは、ただ事件について口を閉ざしているというより、何かに怯えているようだった。
「何か問題があったんですか?」
「……このマンションでは、余計なことを言うと、問題になるんです」
問題——。
それは、口に出してはいけない「暗黙のルール」があることを意味していた。
深まる疑念
斉藤はその言葉を心に刻み、マンションを後にした。
戻った後、再びSNSを調べるが、事件についての投稿は時間が経つごとに削除され、消えつつあった。
「誰かが意図的に情報を消している……」
斉藤は、さらに深くこの事件を追うことを決意する。
田嶋の死は事故ではない。
そして、その背後には、何か巨大な力が動いている——。
次回予告(第2話):「消えた証拠」
次回、斉藤はマンションの監視カメラ映像にアクセスしようとする。
だが、ある時間帯だけ映像が消されている ことに気づく。
果たして、その時間に何が起こったのか?
斉藤の命を脅かす新たな謎が動き出す——。
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