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LIFE ESSay『洗いたてのシャツと過去の会話』MAY 05.2025-Mor.Monday

洗いたてのシャツを着ると、
なんだか世界とやり直せる気がする。

たぶん、そういうふうに仕立てられてるんやと思う。

白くて、ぴしっとしてて、
なにかに謝らんでもええような、
そんな気持ちになる。



昔、母と喧嘩したとき、
「言葉って、ほんまやっかいやな」って思った。

どうしてあんなこと言ってしもたんか、
どうしてあの時、黙っとかれへんかったんか、
わからん。

でも、その時の私は、
自分の心の奥で腐っていた何かを、
きっと吐き出したかったんやと思う。

それがどんなに人を傷つけるとしても。
それがどんなに「言ってはいけないこと」やったとしても。



それから何年も経って、
母と笑いながらご飯を食べたり、
天気の話をしたりしてる。

けど、ふとした瞬間、
あの時の言葉が、洗濯機から出てくる靴下みたいに、
ぽろっと心の底から出てくる。

洗濯しても、たぶん落ちてない。
気持ちも、記憶も、完全に真っ白にはならんのやなって、
思い知らされる。



けど、このシャツは白い。

きのう洗って、
乾いたばっかりで、
まだ少し太陽の匂いがして、
なんなら、ハンガーの跡がついたまんまや。

それを着て鏡の前に立つと、
「今日からや」と、少しだけ思える。

過去の会話は変えられへん。
あの時の私を、今の私が責めても仕方ない。

でも、今日、私は洗いたてのシャツを着た。
その事実が、なんか救いになる。



誰かと話すとき、
過去の言葉が背中にくっついてる気がする。


でも、シャツが新しいと、
ほんのちょっとだけ、自分も更新されたような気になる。



このあいだ、母に会ったとき、
「昔、めっちゃ酷いこと言うてごめんな」って、
ぽろっと言ってみた。

母は、なにそれ、って笑ってたけど、
そのあと急に黙って、
「お互いさまやな」って言った。

それだけで、
過去の一部が、少しだけ和らいだ気がした。



洗いたてのシャツは、
私の中にある「やり直したい気持ち」の象徴なんかもしれん。

毎日、新しい私にはなれんかもしれん。


でも、「少しずつマシな自分」にはなれる。
そう信じられる日は、
やっぱりシャツを白くしておきたいと思う。