黄昏の並木道を歩く男女。遠ざかる記憶とすれ違う想い。『風の約束』第2巻「記憶の影」を象徴する情景。
プロローグ
夜の静けさの中、ショウは机に向かい、一枚の原稿用紙を前にしていた。
ペンを握る指先がわずかに震える。
「……書けるのか、俺は」
ナオとの再会が、彼の中の止まっていた時間を再び動かし始めた。
けれど、ペン先を走らせようとするたびに、なぜか心の奥がざわめく。
まるで、記憶の奥底に眠っていた何かが、ゆっくりと目を覚まそうとしているかのようだった——。
第一章「物語のはじまり」
「ねえ、翔。これ、読んでみて」
翌日、ナオは一冊の古びたノートをショウに差し出した。
「これは……？」
「私が昔、取材で書き溜めたもの。いろんな人の人生の断片を集めた記録よ」
ショウはノートを手に取り、ゆっくりとページをめくる。
そこには、さまざまな人生の物語が綴られていた。
——夢を追い続けた画家の話
——愛する人を失った女性の手記
——過去と向き合えずに生きる男の独白
それらの物語を読んでいると、ショウの胸の奥に、妙な既視感が芽生えた。
「……不思議だな。どこかで読んだことがある気がする」
ショウが呟くと、ナオは微笑んだ。
「それは、きっとあなたの記憶の中にも同じような物語があるからよ」
第二章「記憶の影」
その夜、ショウは奇妙な夢を見た。
——古い街並み。石畳を歩く二人の影。
——女性が振り返り、優しく微笑む。
——『きっとまた会えるわ』
ショウは息を切らしながら目を覚ました。
「……今の夢は？」
夢の中にいた女性は、どこかナオに似ていた。
しかし、それは今の彼女ではなく、もっと昔のような……。
ショウはベッドの上に座り込みながら、自分の胸の奥を押さえた。
懐かしさと切なさが入り混じる、不思議な感覚だった。
第三章「過去と現在の交錯」
翌日、ショウはナオに夢の話をした。
「俺、妙な夢を見たんだ。ナオに似た女の人と、どこか異国の街を歩いている夢」
ナオは驚いたように目を見開いた。
「……異国の街？」
「ああ。まるで、俺が前にもそこにいたみたいな感覚だった」
ナオは少し考え込むように視線を落とした後、静かに口を開いた。
「ねえ、翔。もし……前世があるとしたら、あなたはどう思う？」
「前世？」
ショウは少し戸惑ったが、考えたことがないわけではなかった。
「もしそんなものがあるなら……俺たちは、前にも出会っていたのかもしれないな」
ナオは微かに微笑みながら頷いた。
「そうかもしれないわね」
第四章「鍵となる記憶」
ナオは翔をある場所へ連れて行った。
「ここ……」
そこは、ショウが子供の頃によく遊んでいた古い図書館だった。
「ここで私は、昔たくさんの物語を読んだの」
ナオはゆっくりと本棚の一冊を取り出した。
「この本……あなた、覚えてる？」
ショウは本を受け取り、表紙を見つめた。
そこに書かれていたタイトルを読んだ瞬間、頭の中にある映像がよみがえった。
——少年と少女の物語。
——何度も生まれ変わり、再び巡り合う二人。
——けれど、決して結ばれることのない運命。
「これ……読んだことがある」
「そう。私も、昔読んだわ。でもね、ショウ——」
ナオは彼をまっすぐに見つめる。
「これは、私たちの物語かもしれないの」
第五章「つながる記憶」
ショウの頭の中で、過去と現在が入り混じる。
「もし、前世が本当にあるなら……」
「私たちは、また巡り合ったのよ」
ナオの言葉に、翔は息をのんだ。
すべてがつながる気がした。
なぜ彼がナオに惹かれるのか。
なぜ彼女の言葉に懐かしさを感じるのか。
なぜあの夢を見たのか。
「俺たち……前にも、こうして会っていたのか？」
ナオは微笑むだけで、答えなかった。
エピローグ「次の扉」
ショウは再び、ノートを開く。
「……書いてみよう」
前世が本当にあるのかどうかは、わからない。
けれど、ナオと過ごす時間の中で生まれた感情を、彼は文字に残したいと思った。
——物語は、またここから始まる。
『風の約束』 第2巻 完
第3巻「約束の灯火」へ続く…
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