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PERSOna Essayist Special『50代、愛と…――あるLINEから始まった』APR 18.2025-Nit.Friday

「まだ恋なんてすると思わなかった」

その言葉が、ふと口をついて出たとき、自分でも驚いた。

50代。いろんなことを通り過ぎたと思っていた。 愛も、別れも、後悔も、再出発も。

そんな中、ある日、ぽんとスマホに届いた一通のLINE。 送り主は、かつての同僚。 「久しぶり。元気にしてる?」

それだけの短い文章だった。 でも、なぜだか胸がきゅっとした。



彼の名前を見たのは、十数年ぶりだった。
当時のやりとりをさかのぼっていくと、 お互いの生活や感情の機微が、行間からよみがえる。

付き合っていたわけではない。けれど、確かに“何か”はあった。

「あの頃は、ちょっと無理してたよね」
「あなたの笑い方、昔と変わってないね」

やりとりを重ねるうちに、 思いがけず、心の扉のノブが少しずつ回っていく。



50代という年齢は、どこか“完成された存在”のように扱われる。

「もう落ち着いてるはず」「揺れたりしないはず」――そんな期待の中で、 ほんとうは、誰よりも不安だったり、寂しかったりもする。

恋をすること、誰かを想うこと。
それが若者の特権であるように扱われがちなこの世界で、

50代の愛は、どこか”恥ずかしいもの”のように見なされてしまう。

でも、愛の始まりに年齢は関係ない。
いや、むしろ、50代の恋は静かで、深くて、 少しのやりとりが何倍もの意味を持つ。

「LINEで心が動くなんて」 そう笑いながら、夜がふけるのを惜しむようにやりとりを続けた。



その関係が恋に発展するのか、 それとも思い出の更新に過ぎないのか、 それはまだ、わからない。

でも、ひとつ言えるのは、 50代になっても、 誰かを想い、誰かに想われるという奇跡は、 確かに存在するということ。

それは、大きな炎ではなく、 手のひらで静かに灯り続けるロウソクのような、 やさしい光。

そしてその灯りは、 長い人生の道の途中で、
「まだ続きがあるよ」とそっと教えてくれる。



50代、愛と…――あるLINEから始まった。

その一行から、わたしの時間が少しずつ動き出した。


Epilogue

まだ恋と呼ぶには、少し照れくさい。

でもこのやりとりが、心のどこかを確かに温めている。 ゆっくりでいい。