西暦2060年。世の中は急速なデジタル化を遂げ、すべてが電子的に管理される時代に突入していた。手紙や紙の本などの「アナログなもの」は、ほとんど姿を消し、人々は瞬時に感情や思考をデジタルデバイスで共有するようになっていた。生活の全てが技術によって支配されているこの近未来社会で、65歳のサコは、孤独な日々を過ごしていた。
サコには、誰にも話せない大切な宝物があった。それは、30年前に他界した夫、タケシがまだ元気だった頃に書いてくれた一通の手紙だった。
若い頃は一緒に笑い、苦労を共にしてきた二人だが、タケシは突然の病で亡くなってしまった。
以来、サコはその手紙を大切にしてきた。
今では、タケシの面影を感じられる唯一のものとなっていた。
サコはこの未来社会に馴染めず、毎日が淡々と過ぎていた。娘のアキコは結婚し、仕事で忙しく、最近はほとんど会うこともなくなっていた。デジタル技術が進化していく一方で、サコはますます自分が時代に取り残されているように感じていた。
そんなある日、アキコから荷物が届いた。箱を開けると、中には最新の「量子パソコン」が入っていた。アキコのメッセージには「お母さん、これを使えば、もっと簡単に私と連絡できるし、楽しいこともいっぱいできるよ」と書かれていた。
サコは戸惑った。今までスマートフォンすら使いこなせなかったのに、こんな高度な機械を使えるはずがない。しかし、暇な時間が多い今、何か新しいことを始めるのも悪くないかもしれない。そう思い、サコは恐る恐る量子パソコンを起動した
パソコンは予想外にシンプルで、画面には直感的なアイコンが並んでいた。サコは少しずつ操作に慣れ始め、試しに夫タケシの手紙を量子パソコンのスキャナにかけてみることにした。手紙をスキャンし、デジタル化された文字が画面に現れたとき、サコの胸に懐かしさが込み上げた。
しかし、その時驚くべきことが起こった。量子パソコンが突然光り出し、スキャンした手紙の文字が立体的にホログラムとして浮かび上がったのだ。さらには、若い頃の夫タケシの姿が目の前に映し出された。驚いて立ちすくむサコに、タケシの声が優しく響いた。
「サコ、君と過ごした時間は、僕の宝物だよ。ありがとう。」
涙が溢れるサコ。そこには、30年前に失ったはずの夫の温かさが蘇っていた。デジタル化が進んだ未来の中で、こんな形で彼と再び繋がれるとは思ってもみなかった。サコは、手紙を通じて、タケシがいつもそばにいてくれたことを実感した。
それからというもの、サコは量子パソコンを使って、昔の写真や動画を取り込み、タケシとの思い出をデジタル空間に再現することに夢中になった。技術は確かに冷たく感じられることもあるが、サコにとってこの量子パソコンは、失われた温かさを取り戻すツールとなったのだ。
さらに、サコは娘のアキコとも頻繁に連絡を取るようになり、二人の距離も縮まっていった。アキコが送ってくれたこのパソコンが、サコの心を再び満たし、家族との繋がりを強めてくれた。
「ありがとう、タケシ。そして、ありがとう、アキコ。」サコは心の中で感謝をつぶやき、微笑んだ。
技術がどれほど進んでも、愛や絆は消えない。それどころか、未来の技術がそれを新たな形で繋ぎ直してくれることもあるのだ。
この物語では、最新の量子パソコンが過去の愛や思い出を未来の技術で蘇らせ、主人公サコが再び家族との絆を感じ、孤独から解放されていく様子を描いてみました。感動的な一瞬が、未来の技術によって新たに生まれるというテーマを大切にしています。
どんなに素晴らしい文明が進む中に於いて、大切なことはいつも、それを、如何なることに使うかが問われています。本来は人間にとって全ての人々が平和に暮らせる為に利用されるものと考えておりますが・・・
いくぶん~文明の利器がいつも人を殺める事に優先してきたことを悔い改める切っ掛けになればとおもいます。